乙武さんの新刊①
2013年08月14日 水曜日
『五体不満足』が500万部の超ベストセラーとなった、乙武洋匡さんが2013年に発刊した『自分を愛する力』の冒頭は、五体不満足にも記されていた、乙武さんとお母さんが初対面した時の感動的場面から始まります。お母さんが両手足のない乙武さんを見た瞬間、「かわいい」と発した母の愛情が乙武さんの人生を決定づけたと言っても過言ではない、体内に手と足を忘れてくるという、とんでもないうっかり者の息子を、母は認めて受けとめたくれたから、「不幸行き」の列車ではなく、「幸福行き」と書かれた列車に乗ることができたのはこの母親との初めての出会い方があってこそだと。
自己肯定感をテーマに本著は構成されていますが、巻末で精神科医の泉谷閑示先生との対談で自己肯定感そのものの存在について納得した部分がありました。自己肯定感を「健全な自己愛」と言い換えられ、スタンダードな心理学だと、親から十分に愛されなければ、自分を愛したり、人を愛したりすることができないと解釈されています。しかし、泉谷先生は、とそもそも全ての人は自己肯定感、健全な自己愛を持って生まれてくるのです。つまり自分が自分を無条件で愛することができる状態で人間は生まれてくるのです。
ところが親や周りとの関係において、不当に叱られたり、無視されたり、傷つけられたりするうちに、本来は自分を愛することができる存在だったにも関わらず、「自分はもしかすると愛される資格のない人間なのではないか、ここに居たらいけないいんじゃないか」と幼いなりに理解し、だんだんと自分自身を否定するようになり、自己愛が失われていくのです。
解りやすい比喩でいうと、人はもともと太陽に照らされた状態で生まれてくるけれど、育つ過程で理不尽な出来事を経験するうちに、自分の上に分厚い雲がかかり、太陽の光が遮られてしまい、自分を愛せない状態に陥るのです、と述べられています。
この解釈を読んで、仏教で説かれている「すべての存在は仏性(ぶっしょう)そのもの」で、仏さまのようになれる素質を持っている…、に通じた捉え方で、人それぞれ個性がありお互いに元々素晴らしい存在なのだから、尊重し合っていくことをベースにおくが大切だと改めて感じました。
5月5日に国民栄誉賞を受賞した、長嶋茂雄さんと松井秀樹さんが監督と選手の師弟関係だった当時、2人きりで素振り練習を毎日欠かさず行っていたシーンの貴重な録音が残っていました。バットが風を切る音で好不調が解りあえるという天才同士の次元で、長嶋さんが松井さんに掛ける言葉は、励ましと讃嘆、少しだけの方向性でした。否定的な言葉は一言たりとも無かったのです。松井さんのことを必ず日本を代表するスラッガーになると素質を見抜き、尊重して大事に導いた長嶋さんの接し方、理屈理論ではなく感覚的な共感があったのです。
Posted in 前園長(11代)須田 益朗の実践ブログ