2013欧州で保育を学ぶ旅⑥
2013年06月26日 水曜日
子どもたちのアイデンティティは、個人的なサインや愛情の対象によって発展していきます。そこでは、個々の関係を奨励することが必要であり、また日々の小さなあるいは大きな出来事を記憶し記録する能力も必要です。記録することが、保育園・幼稚園において、日々の重要な仕事となる理由がここにあります。忠実な日誌、写真集、複数の保育者によって書かれた記事、こういったものによって、大人も子どもも、数々の経験を追体験することができるようになり、出来事を結びつけたり経験を共有したりすることができるようになります。
それらのイメージ、写真、オブジェクト、玩具、家から持ってきた物が、すべての子どもたちに語りかけるのです。これらのものが、愛情や友情ついて語りかけ、毎日一緒にいて楽しみたいと思っている子どもたちの内面の重要性を表しているのです。保育園・幼稚園における生活は、このように家庭生活と結びついています。子どもの個人的なストーリーは、相互に結びつけられて新しく共有されたストーリーができるのです。
専門家の技術によってではなくむしろ存在そのものに関わる人間的な方法によって、互いに親しくなるようにしむけることができるのです。アイデンティティの問題は、何度も問題になりました。なぜなら、大人が子どもたちを評価し、彼らに興味を抱き、彼らの欲求を反映するような教育プロジェクを作り上げるには、子どもを深く理解することが不可欠だからです。子どもの経験に対して全面的に共有したいと思うことは、子どもが一般的に好きであるという感情や子どもに対する一般的な善意とは別問題です。
子どもの経験の全面的に共有するためには、時間が必要なのです。この経験の共有が学ばれ完全なものになるためには、観察力や傾聴する能力が駆使されなければなりません。しかしながら、大人が子どもに対してどれだけ注意を払っているか、どれだけ寛大であるかは、子どもたちの認識の成長に見合った環境をどれだけ作り出せるかにはっきり表れます。
ピストイアは学校を体験と活動の場、学びに好都合で学びの手助けをする場、好奇心をつのらせ自立を可能にする場、とすることをめざしてきました。プロジェクトにおいて教師は、子どもたちに知識を与えるのではなく、子どもの周りに十分なスペースと時間を準備することによって、子どもたちが学ぶために好都合な環境や条件を与えるのです。そこには、子どもの目、手、ジェスチャーをひきつけ刺激するものが、子どもの心を形成する目的で含まれています。
この場所は創造性、感情、「可能性」という財産によって、世界を認識するばかりではなくそれを変え、そこに含まれた意味を形成するための場所なのです。これらは平凡でないけれども豊かで、一時的ではなくて持続的な、大人や子どもたちのグループにとって意味のある場所であり、皆がよく知っている堅実な要素を育む関係のネットワークに根ざした場所なのです。
ピストイアの環境が、「寛大」であるのは、子どもたちのケアと彼らの様々な可能性に対して開かれていて、子どもたちに容易に近づくことができるから「寛大」なのです。さらに教育環境、とりわけ与え方や準備の仕方や生き生きとさせるすべを知っている先生の活動に対して開かれているから「寛大」なのです。
Posted in 前園長(11代)須田 益朗の実践ブログ