人は「情動」で決めている
2013年01月07日 月曜日
白梅学園大学カウンセリングセミナーで汐見学長からお話を伺いました。小脳は≒130グラムです、運動機能をつかさどる役割で自転車に何年物乗らなくても乗れるのは、小脳がつかさどっているからです。学校で習った正弦(sine)・余弦(cosine)・正接(tangent)は忘れてしまっても、小脳や筋肉系で覚えたものは消えにくいのです。
人間が何かを覚える時は「情動」の働きによって覚えるのです、嬉しいという感情で覚えるのです。勉強も感動的に覚えると消えないのです。小脳は体で覚えることを記憶しています、小脳を広げてみると大脳の2倍もあり、細胞は7倍です。発達は何歳だからどこまで発達するということではないようです。発達とはコミュニティの中で見たことをマネしてやってみてその中でできるようになるのです。斧を使わない民族や文化では子どもは使えないのです。
西洋人が発達と定義したのは西洋の中産階級の子どもの文化の中での発達にすぎません。
虐待などの環境で育った子どもは身体生理的発達も遅延し、栄養を与えて狭所に閉じ込められた子どもの発達も遅延するのです。ピアジェがなぜ批判されているかは、自分の子どもを対象としたからです。子どもは相手の気持ちになれないとピアジェは言っていましたが、ピアジェの保存の概念、4歳の保育園児を対象にビー玉10を50センチ間隔で置いて見せた後、そのビー玉を寄せ集めて掌にのせてみて、並べたビー玉とどっちが多いか少ないかを尋ねると、多い・少ない・バカみたいという子どもがでてきます。バカみたいと感じられるのが可逆性という現象です、ところが飴玉でやると誰も間違いません。
ロシアの心理学者ビゴツキー理論をアメリカは推奨しました、子どもの発達は周りの状況をすべて判断する、状況的発達論といいます。心理学者は実験室でおこなっているだけでですから、子どもの発達を本当に知っているのは保育現場です。発達という見方が必要なのは段階があるからです、できるようになることをラーニング、これが学べたから次のことがしたくなるのです、ラーニングストーリー学びの物語といいます
ある子どもが●ができるようになり、つぎに◆ができるようになる、ドキュメンテーション記録を作る、一人ひとりの子どもの学びの物語を記述するのです。その子の様子、気持ちの変化、因果関係を記述すること、保育者が子どもの学びの物語を記録するのが高く評価されているニュージーランドのテファリキです。一人ひとり皆違う物語があるのです、感情とか怒りと子どもの自発性は切り離せないもので、「情動」がキーワードです。情動のメカニズムの探求を行っている理化学研究所の情動機能研究チームでは、情動とは喜怒哀楽のことです、主体的なものと外部からわかる部分があるのです。英語ではエモーション、外界の刺激に対して反応することを情動といいます。
ダーウィンは情動の生物学的意義は、個体維持と種族保存を達成するためにあると述べています。快情動は好きなこと、欲求が満たされないと怒りが生じ攻撃的情動の段階で価値判断しています。人間は自分で決めるのは情動段階で決めているのです、後で理由づけをしているのです。不安を感じる扁桃体が正常にははたらき、前頭前野が機能しなくなるとうつ病になります。
運動指導をしている園の方が能力は低かったという研究発表の中でも、園庭で自由な遊びを子どもたちが自発的に決めて行っていると最高点だったのです。保育者が介入するとダメで、保育者が介入すると子どもは評価されると感じるのです。従来の子どもはしなやかに運動できる子どもだったが、今はしなやかに動ける子どもが少なくなっています。これしなさい、これだめと言われると機能が発達しにくくなるのです。
従来の生活の中で鍛えられた子ども像と、今は違うので園が人工的にそれを作っていくことが大切な役割です。
運動能力を向上させるのも情動が大きく関与していて、やらされている感があるときは情動が働いていないのです。やりたいことを思う存分できる環境こそ子どもが伸びる秘訣です。子どもの気持ちがのっていない時にさせても効果的ではないということを理解しておくことが大切です。(文責:園長)
「情動」という言葉は保育現場ではあまり使われない言葉ですが、人間の判断や記憶の大きく影響しているのですから、これからの保育の中では脳科学と連携した理論と実践が不可欠だと感じました。小脳や筋肉系で記憶されたことは消えにくいというのはとても興味深い話です。調べてみると、漢字や英単語を頭で覚えるのは「陳述的記憶」で忘れてしまうこと多いのに対して、体で覚える「手続き記憶」(技の記憶)は消えにくく、「大脳基底核」は脳が体の筋肉を動かしたり止めたりするときに、「小脳」は筋肉の動きを細かく調整してスムーズに動くために働きます。
私たちが一生懸命に体を動かし、何度も失敗をくりかえしながら練習するうちに、「大脳基底核」と「小脳」のニューロンネットワークが正しい動きを学び、記憶していくのだそうです。
こうして体で覚えた「手続き記憶」は、消えることなく、いつまでも私たちの脳に刻み込まれるのです。
Posted in 前園長(11代)須田 益朗の実践ブログ