欧州で子ども主体の保育を学ぶ旅24
2012年10月23日 火曜日
今年も新宿せいが保育園の藤森園長先生主催、「ドイツ・ミュンヘン保育環境視察ツアー」が始まりました。育子園からも3年連続で職員が参加していますが、ミュンヘンに無事到着した様子をブログに掲載してくれました。毎年限定20人のツアーには日本全国から、子ども主体の保育を学びたい保育関係者からの申し込みが多く、今年もキャンセル待ちがでたそうです。
質問⑩:人には相性があります。もしも相性が合わない子どもと保育者の場合、3~5歳児の3年間を一緒に過ごすのは難しいのではないですか。
回答⑩:3年間担当する意味は、担任が毎年が変わると子どもと保護者との信頼関係をゼロから構築する毎年莫大なエネルギーを注ぐことになります。
担当する26人の子どもと26家族と信頼関係を築くのは大変です、毎年変わっているとそれを3回行わなければならないのですから、お互いにとってあまり良いことではありません。保育は担任だけで行うのではありません、他の保育者やアトリエスタ、地域の人々など多くの関わりの中で発達を遂げていくのです。イタリアの学校では原則として卒業するまで同じ教師が担当しています。レッジョの方式では、3~5歳児は年齢別クラスで、国立幼稚園は異年齢です。
質問⑪:保育中のドキュメントの記録と活用について教えてください。
回答⑪:ドキュメントは今までやったことの資料、子どもたちの発達や作品群で、書き留めたり、ビデオ録画、写真撮影をしてとらえています。そうすることで保育者がインスピレーションを広げることができます。保育者の資質向上に役立ち、展示することで他者に見てもらうことで、自分の主観で記入したモノを客観的に見る気持ちになれることです。自分の主観を他者に見せることで、どのように子どもを観察しているかをオープンにすることです。批判や賛同をもらうことでコミュニケーションが生まれ、自分が向上していけるのです。
質問⑫:ユーロ危機の中で保育にかける予算も限りがあると思いますがレッジョではどのような状態ですか。
回答⑫:レッジョの地域も経済的に大変ですが社会福祉に力を入れています。近々、国からの補助金が打ち切られそうです。レッジョでも昨年からリストラを始めましたが、ボローニャ、フィレンツェはもっと大変だと聞いています。そんな状態ですからアトリエスタは不要なものだという声もあるかもしれませんが、廃止することは保育理念に反することになるので廃止しません。費用をかけなければならないところにはちゃんと手当てをします。
労働時間も36時間労働から25時間へ短縮されそうですから、そうなると良い保育はできません。1980年代の経済危機もどうにか乗り切りましたが、保育の質を下げることはできません。子どもたちは私たちの将来なので投資していきます。
質問⑬:アトリエスタのどのように選抜しているのですか。音楽関係者の割合はどの程度ですか。
回答⑬:レッジョアプローチを学び理解した人がコンクールに応募して、その中から選ばれます。音楽関係者は少数です。市民に見せるイベントには有効な人材です。
質問⑭:子どもたちが作った作品群はどうのようにしているのですか。
回答⑭:半分は家庭に持ち帰り、園にも半分保管します。園で過ごした思い出として大切に共有していきたいものです。その時、その瞬間に子どもが学んだということを重要ししています。
(文責:園長)
この日は研修が終わってから徒歩20分の場所にある「Scola Materna Fondazione Campi Soncini」園を見学しました。1923年にキリスト教を基に創設され、現在は職員と地域住民で運営している自主独立精神の高い園です。日本人も2人通っているそうで、南イタリアからの移住者が多いレッジョを象徴している多民族の子どもが利用している園です。異民族、異文化を受け入れる心の広さと余裕を持った創設者の意思を引き継ぎながら、時代の変化にも対応しているのです。使用している備品・玩具類は年季の入ったモノが多く、質素倹約の自主運営環境の中で工夫して保育を行っていました。
Posted in 前園長(11代)須田 益朗の実践ブログ