欧州で子ども主体の保育を学ぶ旅⑰
2012年10月11日 木曜日
講師さんは、保育者・先生が大切にすべきことは、保育室全体の保育環境を整えることです。子どもたちが自発的に活動できる場所を提供し、大人は距離を置いてつぶさに観察するのです。
たとえば4人の子どもが粘土で遊んでいるそばで、保育者は黙って座って観察しています。大人用の陶芸用粘土を使わせて、レコーダーで子どもたちの語りを録音します。4人の子どもの観察グリルを保育者は事細かに書きます。どの子どもがどんな風に作品を作っているかその過程を事細かに書き留めています。完成物も大切ですが制作過程の方がもっと大切です。
今その瞬間に、何が起こったかを観察し記入することが大切です。この作業は完成してから思い出しながらでは記入できないのです。音声録音も作成手順に書き加えていきます。なぜ、こんなことをやっているかというと、言葉を言い換えるために行っています。少人数だからできるのしょう。☆プロジェクターで投影されているのは、実際に保育者が子どもを観察しながら書いたものです。
作品ができたプロセスが大切なので、何を作ったか上手にできたかではないのです。
★写真は4歳のグロリアちゃんが作った馬です。足は2本、製品、商品としてみるとどうでしょう。ところが制作過程を知ると、とても興味深い作品だということが解ってきます。
保育者は静かにすることです。グロリアちゃんが手で伸ばした粘土を保育者がひょいと曲げました。二次元の馬を作って紙状に置いてみました。グロリアちゃんはそれを立たせようとしましたが、ぐにゃっとして立ちませんから、しかたなく紙の上に戻しました。それは彼女のイメージとは全く違うものです。ここで保育者は4本足にすることを提案したくなるのですが、決してそれを言わないことです。子どもと一緒
に答えを探すことが重要です。
最近接領域、少しだけ高い目標値に対して最も興味を持つということです、端を持ち上げたことで三次元の馬のきっかけがつかめたのです。前足は立ち上げることができことができましたが、後ろ足は立ち上がりません。彼女は後ろ足を立たせることを今回は断念し、たてがみをカールさせた馬を作ることになりました。次の土粘土遊びのヒントがその中にはあります。その後グロリアちゃんは他の子どもを見て感じて学習していきました。
次の写真は粘土で作ったモノを観ながらオマール君が「雨が降ってきた」と言うと、隣の子どもは濡れないようにと傘を作りました。完成作品からは伝わらないことがあるのです。子どもたちの作品と制作過程ドキュメンテーションは資料として壁に展示しています。
子どもたちに同じものを製作させるという活動には何の意味があるのでしょう。造形物には同じものはあるはずがありません。保育者は子どもたちと制作過程を振り返ります。上から見る、鳥瞰的に俯瞰的に見る、考えながら子どもにドキュメント作成をしてもらうこともとても楽しいことです。(文責:園長)
お話を伺って感じたことは、造形・制作の過程を記録するドキュメンテーションという点はとても興味深い、大切にしたいポイントだということです。とかく我が国の保育では作品の出来栄えを重要視する傾向に偏りがちですが、そのプロセスの中にこそ、子どもの葛藤や気づきがあるのです。
また、みんなに同じモノを作らせるという保育方法は、「工業製品作り」を大人主導でさせていたと保育現場からも反省の声が聞こえています。同じものを作らせて、展示して保護者や保育者に見せるという意味をレッジョでは何の意味も興味もないモノ、「造形・制作」は何一つ同じものは存在しない、させる必要はないということを理念としてしっかり打ちだしています。保護者にも制作過程の記録を開示することで、子どもの努力と保育者の待つ姿勢を理解してもらえるのです。
Posted in 前園長(11代)須田 益朗の実践ブログ