在来作物を伝承する崇高な人々
2012年04月26日 木曜日
東京世田谷にある下高井戸シネマで、『よみがえりのレシピ』という長編ドキュメンタリー映画を見てきました。京王線とマニアックな東急世田谷線が走り、レトロな市場・商店街が軒を連ねる下高井戸、東京ではこの映画館3日間限定で上映されました。映画の存在を教えてくださったのは、普段から交流している杉並区にある認可保育園荻窪北保育園の園長先生です。
この映画は、山形に古くから伝わる「在来作物」の絶滅を危惧した渡辺智史監督が山形在来人物(主に農家の方々)に登場してもらい、在来作物伝承にかける思いを語る場面から始まります。庄内地域他に今でも伝承されてきた、○○キュウリ、○○カブ、○○山芋、○○ゴボウ、○○大根、○○ホウレンソウ等(正確な名称をメモできませんでした)を未来に継承することを生きがいにしている農家の人々、皆さんのインタビューには共通している点があります。
昔からこの土地で育て、食べてきた作物を絶やすわけにはいかない自分の代で終わらせたくない、自分が作った作物を食べたくて待っている人がいる、野菜をおすそ分けすると、漁師さんは魚をくださる、この循環が本来の人間関係あり方だと思うのです。今ではすっかり減ってしまった焼き畑農業を伝承している藤沢カブの後藤勝利さん、日の出前に点火し山火事にならないように焼いた畑は、病害虫が絶え作物栄養素がタップリの大地に生まれ変わり、無農薬で野菜栽培ができるのです。
生物が具えている自DNAを未来に残したいという種の保存本能を在来作物にもと考え、行動していらっしゃる方々の心意気、志、責任感が素朴で純粋な語り口は、観客の胸にジンジン伝わってきます。
そんな純粋な心意気の生産者が手塩をかけて作り上げた在来作物作品をアレンジ作品として消費者に届けているのが、イタリアンレストランのアル・ケッチアーノの奥田政行シェフです。奥田シェフ曰く、多くの料理人は素材を自分流の調理方法に合わせようとしていますが、私は素材に自分を合わせることが料理だと考えています。
生産者と料理人、その両者を学術的に支えているのが、九州出身の山形大学農学部の江頭宏昌准教授です。在来作物の消失は、地域の歴史や文化も一緒に消失してしまうと危惧していらっしゃいます。
映画上映の後、会場一杯に詰めかけた観客の拍手を浴びながら渡辺智史監督の挨拶が始まりました。1981年生まれの監督がなぜこの映画を創ることになったのか。それは2007年に遡ります。食に対する安全をテーマにした外国映画が配給された2007年、自身も映画を撮りたいとスローフード、オーガニック等を調べました。
そしてたどり着いたキーワードがその風土で長年生き続けてきた、「在来作物」でした。先の戦争前まで普通に存在していた地域それぞれの、「在来作物」は高度経済成長がもたらした、大量消費、大規模農業で忘れ去られ、多くの貴重な種が消滅していきました。
さらに調べていくと地元鶴岡市で「在来作物」伝承・普及活動している、山形大学農学部江頭准教授、イタリアンレストランのアル・ケッチアーノで厨房に立つ、奥田政行シェフ奥田さんの存在を知り、居てもたってもいられず住んでいた川崎市から2010年実家に帰り、さっそく映画制作準備を始めました。
管理栄養の士岡田さんを制作委員長に、市民プロデューサーを連ね制作費の捻出に尽力しました。現在まで種を守った人々の頑固な心意気を見事に描いた作品は、香港国際映画祭でも上映され、中国の食不安、海外種を食べていることへの疑問、オーガニックを普及していきたいという機運にさせました。映画タイトル。『よみがえりのレシピ』のレシピには、処方箋という意味があり、この映画が食への処方箋となればと上映活動をしています。
今秋には渋谷ユーロスペースで上映予定です。
特に、幼い子どもに是非とも在来作物の伝えたいのは、子どもの味覚はほぼ10歳で決まるので、在来作物のような微妙な苦み、酸っぱさ、奥の深い甘味などを体験して欲しいと願っています。
会場には江戸東京野菜を伝承しているグループの方々も応援に駆け付けていました。育子園の空中菜園でも是非、江戸東京野菜を栽培し食してみたいものです。
この映画が語っているのは、多くの都会人が食べている製品化された野菜、わざわざ海外から輸入している食材を食べていることを根底から考え直すきっかけになればということだと思います。上映会の終わりに渡辺監督さんに直接ご挨拶ができましたので、杉並区の保育者や保護者を対象とした上映会の依頼をしました。渋谷での上映が終わってから実現できるように念じています。
Posted in 前園長(11代)須田 益朗の実践ブログ