つり革のいる保育園とは
2012年04月06日 金曜日
今国会で審議予定の、「子ども・子育て新システム」について同ワーキングチームに参画している、東京大学名誉教授・白梅学園大学学長の汐見稔幸先生が解説と将来日本の保育像を考察する学習会の続編です。
当然日本でも質の高い保育を提供することが最も重要なのですが、残念なことに新システムの話し合いではその各論は論じられませんでした。新システム法とこども園法が成立すると、公立保育園の職員は教育公務員になり、1年間教育を受け資格を取り、10年間の免許更新が必要になります。
恒久財源の確保が新システムを支えることになるのですが、保育士の配置基準を3歳児15人(現行20人)、4歳児以上20人(現行30人)に改善する配置基準の改善、事務員の給与補助金が出ていない保育園の待遇改善、公立と私立の給与差が最も高いのは保育園なのでそれを改善しなければなりません。改善に必要な公金は消費税増税に頼るしかありませんが、本質的な保育の質を上げる議論が大切です。(文責:園長)
お話を伺って、保育園における保育士配置基準の改善も大切なことですが、それよりも子ども一人あたりの面積基準を改善することも喫緊の課題です。東京都の認可保育園設置最低基準は、0歳児:5㎡、1歳児:3.3㎡、2歳~1.98㎡以上が必要です。この面積基準についてECD諸国の最低レベルです。さらには待機児童対策と銘打って0~1歳児を2.5㎡に緩和するというのは、どう考えても子ども中心に考えたものではありません。狭い空間に押し詰められて身動きが取れないのは満員電車だけで十分すぎます。
以前にもこのブログで紹介しましたが、
2009年に全国社会福祉協議会が保育大学教授、市区町村保育課、保育園長(育子園で導入している見守る保育の主宰者:新宿せいが保育園の藤森園長も参画)、建築士の代表を招集して研究提案した、「機能面に着目した保育所の環境・空間に係る研究事業研究成果の概要」によると、
①特に乳児の発達過程を保障するためには、食事と昼寝を中断しない保育環境、「食寝分離」が必要不可欠である。保育面積が狭いと、速く食事を食べ終えさせてテーブルを片づけ、布団を敷かなくてはならない。
②建築設計の観点から子どもと保育者の動線や必要面積を計算すると、2歳児以下は一人当たり4.11㎡以上(現行2歳児:1.98㎡)、3歳児以上は2.43㎡以上(現行3歳児:1.98㎡)が必要である。現行の面積では狭すぎる。
③先進諸外国(フランス、ドイツ、イングランド、スウェーデン、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド)の保育面積と比較すると日本が最低で、特にスウェーデン・ストックホルム市は日本の4倍である。
④このような現状からして、現行の面積を引き下げることや引き下げられるような仕組みを導入することは、子ども一人ひとりの発達に応じた保育を今以上に困難にするもので、現行の基準を引き上げることを検討すべきである。
と提言しています。戦後、欧米は日本の住居を、「ウサギ小屋」と酷評し、やっと日本家屋にもLDKが取り入れられたにも関わらず、幼い子どもが起きている時間の大部分を過ごす保育園が今さら逆行するのは説得力がありません。現在、育子園では保育先進諸外国を参考に、3歳児以上は「食寝分離」をさらに向上させて、「遊・食・寝分離」を行っていますので、安易に今回のような特別措置が定められると、保育環境レベル低下をまねくことになりかねません。
Posted in 前園長(11代)須田 益朗の実践ブログ