日本が子どもを「放牧」できた時代
2012年04月19日 木曜日
今国会で審議予定の、「子ども・子育て新システム」について同ワーキングチームに参画している、東京大学名誉教授・白梅学園大学学長の汐見稔幸先生が解説と将来日本の保育像を考察する学習会の続編です。
現在日本の保育の現状と課題は、昭和時代から継承されていた終身雇用制度が崩れ女性就労が常識化、非正規労働者の増加によって現在の子育て政策では対応できなくなっていることです。そのために新システム構築が必要になり、親の就労、非就労に関係なく子どもの保育を必要とする人が利用できる場所を増やそうという理論です。
戦後から現在まで引き継がれている現行の保育施策を大きく見直そうとしている新システム導入に際し、現行課題を整理するためにプロブレムシート(現行制度にどういう問題があるか、一つひとつ細目に課題を挙げていく作業)を行い、国民に解りやすい問答集を作ることが大切です。
たとえば待機児問題が喫緊の課題だといわれていますが、待機児童がいるのは全国的にみると一部の都市部にすぎません。このように都市部の論理だけで話を進めていくのは整合性に欠いています。先日訪問した青森県東通村では10ヵ所ある幼稚園・保育園を1ヶ所に統合せざるを得ない状況になっているそうです。東京23区の面積に匹敵する地域か1ヵ所へ通わせるのは非現実的です。
幼稚園の経営難は深刻の度を深め、近年では年間1,000園が閉園し続けています。OECD諸国と比べて日本は0~2歳児の保育環境整備が大きく遅れ、保育園に対して働く親のための託児所的な位置づけや誤認識が根強く残っていて、保育の質を高める取り組みを怠っていたのです。
さて、昭和までは地域社会や家庭で子育てできる良い環境がありました。子どもは家庭という安全基地を核として、地域に「放牧」されて様々なことを学び共助の中で、子どもはちゃんと育っていました。また、子どもは大切の労働力としても地域社会に放牧され、家庭で仕事文化と団らんを味わっていたのです。地域の人が勝手に入れていた勝手口が無くなった現代社会では、0~2歳児の保育が必要です。
しかし20%の子どもしか保育園に通えない現状下で、家庭内の密室親子だけの子育てが課題が大問題になっています。母親の精神的・肉体的な困難を軽減してあげることが子供の健やかな成長に欠かせません、これは本当に急務課題です。(文責:園長)
お話を伺って思い出すのは、特に都市部における無関心社会への変貌です。かつて、地域の頑固おやじは愛情表現の手段として、他人の子どもも叱り飛ばしていました、と同時に抱えれくれる優しいおばさん達という役者がそろっていたようです。汐見先生独特の解りやすい比喩、「子どもの放牧」はまさしく、向う三軒両隣の精神で成り立っている時代、地域構造だったからありえた放牧だったのでしょう。映画『三丁目の夕焼け』のような人情コミュニケーションが当たり前のように営まれていました。
お隣からお醤油を借りたり、お風呂までいただいたり(入らせていただくこと)したものです。そのお返しにいただき物のおすそ分けが日常茶飯事おこなわれていましたから、地域で子どもを見守る、あの子はどこの家の子どもだ、と皆が承知している風景でしたからのびのびとした放牧が行えたのです。個人情報等の制約が無かった当時の人間関係と地域社会を再考することも肝要だと思います。
Posted in 前園長(11代)須田 益朗の実践ブログ