「ウサギ小屋」へ逆戻り?
2011年08月31日 水曜日
慢性的な都市部の待機児童を少しでも解消しようとする特例措置が、来年度から実施される方向で進んでいます。厚生労働省が今年4月の待機児童が100人以上かつ、平均地価が3大都市圏の平均以上の自治体を対象に、子ども一人当たりの保育面積を緩和しようという3年限定の措置を提案していますが、保育現場からは反対の声が上がっています。
国が定めている認可保育園の子ども一人当たりの保育面積は、たとえば1歳児は一人当たり3.3㎡ですが、年度途中で2.5㎡に減らせるという考えです。今回の方針について保育業界では、いまでさえ東京都内の認可保育園は待機児童解消のために定員数の弾力化でほとんどの園で定員より多く子どもを受け入れ、新設の園では園庭がない施設まであります。0歳児は寝返りや、ほふく、そしてつかまり立ちが十分できるような保育スペースが必要不可欠なのに、面積を減らそうとしているのです。この措置を育子園に当てはめてみると、現在1歳児クラス定員:30人(国が定めた面積以上を確保しています)の保育室に、約60人も入園できるのですから満員電車なみの状態になります。
さらには、子どもに対する保育士の人数をどのように措置しているのか明確ではありませんから、子どもの人数が大幅に増えても保育士の人数は現状のままということになると、子どもは狭い部屋に詰め込まれ子ども保育士は減るという劣悪な保育環境になりかねません。
今回の案が実行されると保育環境悪化の切り下げ、詰め込みに拍車がかかることを危惧しています。厚生労働省には1,000件以上コメントが寄せられ、賛成意見の一方で保護者からも子ども達を今より狭い部屋に詰め込めないでほしいという意見が多く寄せられています。
2009年に全国社会福祉協議会が保育大学教授、市区町村保育課、保育園長(育子園で導入している見守る保育の主宰者:新宿せいが保育園の藤森園長も参画)、建築士の代表を招集して研究提案した、「機能面に着目した保育所の環境・空間に係る研究事業研究成果の概要」によると、
①特に乳児の発達過程を保障するためには、食事と昼寝を中断しない保育環境、「食寝分離」が必要不可欠である。保育面積が狭いと、速く食事を食べ終えさせてテーブルを片づけ、布団を敷かなくてはならない。
②建築設計の観点から子どもと保育者の動線や必要面積を計算すると、2歳児以下は一人当たり4.11㎡以上(現行2歳児:1.98㎡)、3歳児以上は2.43㎡以上(現行3歳児:1.98㎡)が必要である。現行の面積では狭すぎる。
③先進諸外国(フランス、ドイツ、イングランド、スウェーデン、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド)の保育面積と比較すると日本が最低で、特にスウェーデン・ストックホルム市は日本の4倍である。
④このような現状からして、現行の面積を引き下げることや引き下げられるような仕組みを導入することは、子ども一人ひとりの発達に応じた保育を今以上に困難にするもので、現行の基準を引き上げることを検討すべきである。
と提言しています。戦後、欧米は日本の住居を、「ウサギ小屋」と酷評し、やっと日本家屋にもLDKが取り入れられたにも関わらず、幼い子どもが起きている時間の大部分を過ごす保育園が今さら逆行するのは説得力がありません。現在、育子園では保育先進諸外国を参考に、3歳児以上は「食寝分離」をさらに向上させて、「遊・食・寝分離」を行っていますので、安易に今回のような特別措置が定められると、保育環境レベル低下をまねくことになりかねません。
今年度、杉並区の待機児童は70人ですから緩和措置には該当しませんが、来年以降の対応が危惧されます。さらには認可保育園の保育面積が引き下げられると、認証保育所や認可外保育施設も雪崩式に現行より狭くなる可能性が高まります。待機児童対策は喫緊の命題ですから、適切な予算を投入して保育所施設整備を推進することで保育先進国の仲間入りができるのです。
今回のような子育てに必要な費用をかけずに狭い保育室に子どもを詰め込もうとする制度に対しては、注意深く見守りながら杉並区私立園長会としても提言していきたいと思います。
Posted in 前園長(11代)須田 益朗の実践ブログ